(卓子に、俯いてする夢想にも倦きると)

卓子(テーブル)に、俯(うつむ)いてする夢想にも倦(あ)きると、
僕は窓を開けて僕はみるのだ

星とその、背後の空と、
石盤の、冷たさに似て、
吹く風と、逐(お)いやらる、小さな雲と

窓を閉めれば星の空、その星の空
その星の空? 否、否、否、
否 否 否 否 否 否 否 否 否否否否否否否否

⦅星は、何を、話したがっていたのだろう?⦆
⦅星はなんにも語ろうとしてはいない。⦆

⦅では、あれは、何を語ろうとしていたのだろう?⦆
⦅なんにも、語ろうと、してはいない。⦆

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ひとくちメモ

(卓子に、俯いてする夢想にも倦きると)は
(僕の夢は破れて、其処に血を流した)と
(土を見るがいい)の2篇とともに
連続して作られたことが分かっている作品で
昭和8年(1933年)5―8月制作と推定されています。

2字下げとか
同一漢字の繰り返しとか
詩の視覚的な形へのこだわりなど
ダダを思わせる手法が現れて
若き日の詩人を
思い出させる作品です。

むろん
ダダそのものへ回帰したとはいえませんが
時折このように
ダダは顔をもたげ
詩に豊な表情を与えます。

「逐(お)ひやらる、小さな雲」に
詩人が投影されている
と読んで
間違いはないでしょう。

ああでもない
こうでもない、と
希望に満ちたばかりでもない
夢想に耽る深夜
くたびれて窓を開けると
東京の空にも
星がまたたき
星の向こうには
漆黒の蒼穹が張りつき
風が雲を追いやっています。

しばらくして
窓を閉めても
詩人の脳裏には
星がまたたく漆黒の空が
残ります。

その星の空? 否、否、否、
否 否 否 否 否 否 否 否 否否否否否否否否

――は
その星の空が
冷たく光るだけの
無機質な「否定」としか映らない
詩人のこの日の気持ちを
明らかにし
詩人を
受け入れるものではありません。

星の空は
言葉を持ちません。
言葉を話しません。


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