失われた毒薬(未発表詩)

ブロンドとまた褐(かち)の夜々、
思い出は、ああ、なくなった、
夏の綾織(レース)はなくなった、
手なれたネクタイ、なくなった。

露台(バルコン)の上に茶は月が
漏刻(ろうこく)が来て、のんでゆく。
いかな思い出のいかな脣趾(くちあと)
ああ、それさえものこっていない。

青の綿布(めんぷ)の帷幕(とばり)の隅に
光れる、金の頭の針が
睡った大きい昆虫のよう。

貴重な毒に浸されたその
細尖(ほさき)よ私に笑みまけてあれ、
私の臨終(おわり)にいりようである!

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