都会の夏の夜

月は空にメダルのように、
街角に建物はオルガンのように、
遊び疲れた男どち唱(うた)いながらに帰ってゆく。  
――イカムネ・カラアがまがっている――

その脣(くちびる)は胠(ひら)ききって
その心は何か悲しい。
頭が暗い土塊(つちくれ)になって、
ただもうラアラア唱ってゆくのだ。

商用のことや祖先のことや
忘れているというではないが、
都会の夏の夜の更――

死んだ火薬と深くして
眼(め)に外燈(がいとう)の滲(し)みいれば
ただもうラアラア唱ってゆくのだ。

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ひとくちメモ

東京のサラリーマンたちの姿が
とらえられました。
銀座か新宿か渋谷か……
相も変らぬ都会の夜の風景です。

ラアラア
ラアラア

サラリーマンたちが高唱する中身は聞きとれません。
ただラアラアとだけ聞こえます。

皆さん、糊のきいた
よそ行きの白いシャツの襟も
曲がっちゃって。
職場のお仲間の結婚式の帰りなのでしょうか。

口を大きく開ききって
心の中が丸見えのようなのがどこか悲しい
頭の中も土の塊にでもなってしまったかのように
ラアラアとだけ
がなりながら
どこかへ帰っていくのです。

ここには、しかし
非難がましさはありません
あきれているばかりではなく
サラリーマンへの哀れみのようなものさえ漂います。

いい加減に
おれも
あの隊列の中に入りたいなあ
ラアラアと
何もかも忘れて
高吟してみたいよなあ

という共鳴の響きすらあります。


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