秋の日

 磧(かわら)づたいの 竝樹(なみき)の 蔭(かげ)に
秋は 美し 女の 瞼(まぶた)
 泣きも いでなん 空の 潤(うる)み
昔の 馬の 蹄(ひづめ)の 音よ

 長(なが)の 年月 疲れの ために
国道 いゆけば 秋は 身に沁(し)む
 なんでも ないてば なんでも ないに
木履(きぐつ)の 音さえ 身に 沁みる

 陽(ひ)は今 磧の 半分に 射し
流れを 無形(むぎょう)の 筏(いかだ)は とおる
 野原は 向(むこ)うで 伏(ふ)せって いるが

連れだつ 友の お道化(どけ)た 調子も
 不思議に 空気に 溶け 込んで
秋は 案じる くちびる 結んで

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ひとくちメモ

「秋の日」は
文語調で
ややとっつきにくい作品ですが
何度も読んでいるうちに
やはり、すごいところのある詩だ、と
思えてくる
味のある詩です。

はじめは
詩の形にを注目せざるを得ないので
そうするのですが
だんだん、
この詩の思想性というようなものに
気付きます。

形は、
明治・大正期の詩人・岩野泡鳴の
「分かち書き」という手法を
真似たものらしい。

3字で区切り、1字分の空白を置き、
次に4字で区切り、1字分の空白を置き、

3-4(4-3)×2の14字で改行し、
14字1行の4行を1連とし

4行、4行、3行、3行の4連
つまり、4-4-3-3のソネットとし

さらに
1、2、3連の奇数行の第一字を字下げしています。

字数の遊び
字数によるリズム感
音数律
詩の形へのこだわり
この作品には、
これらがまずあります。

形へのこだわりの上に
文語です。
その中に、
内容の重さが忍び込んでいます。

第4連に

連れだつ友の、

とあり
友と歩いていることがわかります。

河原の土手道でしょうか
並木の道です。

女の瞼
空の潤み
馬の蹄

これは、回想か、幻想か――。

第2連の国道は
第1連の河原と同じ道なのでしょうか
ぽっくりは、
第1連の女が履いているものに違いないです。

第3連に、
山(クライマックス)があります。
流れを、無形の筏が通る、のです。

第1連の河原の
半分に陽が射し
半分は陰になっていて
おそらく、
陰になった河原を
無形の筏が、
ゆっくりと、通っていくのです。

筏そのものでさえ
なんの装備もない
舟ですらない
木で組んだだけの乗り物です。

無形、とは、何にもない
無一物の、という、
詩人の姿なのでしょう。

連れの友が冗談を言い
道化て見せるのも
この旅に不釣合いではなく
秋は
唇をきっぱり結んで
思慮深く、息づいています。

詩人の宣言が述べられる詩は
いくつかありますが
この詩にも
その宣言があります。


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