秋の消息

麻(あさ)は朝、人の肌(はだえ)に追い縋(すが)り
雀(すずめ)らの、声も硬(かと)うはなりました
煙突の、煙は風に乱れ散り

火山灰(かざんばい)掘れば氷のある如(ごと)く
けざやけき顥気(こうき)の底に青空は
冷たく沈み、しみじみと

教会堂の石段に
日向(ひなた)ぼっこをしてあれば
陽光(ひかり)に廻(めぐ)る花々や
物蔭(ものかげ)に、すずろすだける虫の音(ね)や

秋の日は、からだに暖(あたた)か
手や足に、ひえびえとして
此(こ)の日頃(ひごろ)、広告気球は新宿の
空に揚(あが)りて漂(ただよ)えり

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ひとくちメモ

「秋の消息」には
「新宿」が出てきます。

最終行に

此の日頃、広告気球は新宿の
空に揚りて漂へり

と、あります。

単に、秋が来たことを歌った詩のようで、
爽やかな時節にふさわしく
ドラマチックな展開があるでもなく
のんびりした時間が流れます。

教会堂の石段も
新宿のものでしょうか。

石段に腰掛けて
日向ぼっこする詩人の目に
秋の柔らかな陽光に包まれた花が見え
建物か、どこかの物陰から
コオロギの鳴く声が聞こえています。

強い日ざしのおもかげさえ残り
からだはあったかいけれど
手足には、ひんやりする秋の日差し。

からだに暖か
手や足に、ひえびえ

この繊細な表現!
平凡な作品のようだけれど
中原中也の深みは
さりげなく、こんな詩句に存在します。

ふと見上げれば
百貨店の宣伝アドバルーンが
青空にポッカリ
ユラリユラリ揺れています。

三越百貨店あたりの
イメージでしょうか。
そうでなくとも
角筈あたりを
歩いている詩人の姿が見えてきます。


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