月の光 その二

おおチルシスとアマントが
庭に出て来て遊んでる

ほんに今夜は春の宵(よい)
なまあったかい靄(もや)もある

月の光に照らされて
庭のベンチの上にいる

ギタアがそばにはあるけれど
いっこう弾き出しそうもない

芝生のむこうは森でして
とても黒々しています

おおチルシスとアマントが
こそこそ話している間

森の中では死んだ子が
蛍のように蹲(しゃが)んでる

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ひとくちメモ

「月の光 その二」では
チルシスとアマントは
庭へ出ていて遊んでいるのですが
ギターを弾く気配はいっこうにありません。

草叢に隠れていた死んだ児は
今度は
森の中に蹲んでいますが
この変化が
何を意味しているのか――。

死の世界が連続していて
やがてその死の世界は
生の世界へ繋がってくるという
その期待が空しいことを表現しようとしているのか――。

皓々と照りつける月光下の
無音の情景 
沈黙の世界に
変化はなく
そこが死の世界であることに変わりもありません。

しかし
チルシスとアマントが
芝生に出て来てる間に
森の中では死んだ児が、

蛍のやうに
蹲(しゃが)んでいる

――という
この「蛍」には
頑固に動こうとはしない生命(いのち)でありながら
今にも
立ち上がって
「この世」に出て来そうな感じがあり
詩人が
いまだに
文也の死を信じられていないための
絶望があります。


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