(古る摺れた)

古る摺(ず)れた
外国の絵端書――
唾液(だえき)が余りに中性だ

雨あがりの街道を
歩いたが歩いたが
飴屋(あめや)がめつからない

唯(ただ)のセンチメントと思いますか?
――額をみ給え――
一度は神も客観してやりました
――不合理にも存在価値はありましょうよ
だが不合理は僕につらい――
こんなに先端に速度のある
自棄 々々 々々
下駄の歯は
僕の重力を何といって土に訴えます
「空は興味だが役に立たないことが淋しい
――精神の除外例にも物理現象に変化ない」
ガラスを舐(な)めて
蠅を気にかけぬ

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ひとくちメモ

古い外国の絵はがきを
中原中也は
持っていたのか
海外にいる知人から送られた
消印付きの葉書でしょうか――。

いやそうではなく
何かの折に
父からもらった
使われていない葉書で
長い間持っていたために
周囲が擦り切れて
ほころんだカード。
 
本かノートか
机の引き出しかから偶然出てきた
古ぼけた絵はがきにつられ
幼き日を思い出し
ついでに
学校帰りによく行った
故郷の駄菓子屋で買った飴が食べたくなって
京都の街を探し
歩き回ったが
見つからない。
見つからない。

うさぎ追いしかの山
小鮒釣りしかの川

遠く離れた故郷を思う郷愁を
誰のものだと思いますか?

ぼくの額を見てみたまえ
 
一度は神を神とも思えず
客観視しました。
 
そりゃ不合理にも価値はあることを
ぼくこそトコトン知っておりますが
今のぼくにはちっとばかり苦しい。
 
こんなに先っぽに速度がある
自棄 自棄 自棄
 
下駄の歯は
ぼくの重さに耐えながら
土に何と訴えますか?

「空への関心は人一倍だが
役立たずで淋しい
これが物理現象」
 
ガラスを舐めるような
味気なさをたらふく味わい
縄がぶんぶん飛んでいても
気にならないぼく――。

と、なんとか読んできたこの詩
冒頭連の1行だけを読み飛ばしましたが
ここで
唾液が余りに中性だ、とは
味覚が鈍くなっていて
なんでもが
甘くもなければ
辛くもない
おいしく感じられない状態を指している
それで
飴を食べてみる気になった、とつながりました。

アンニュイ(倦怠)が芽生えているのでしょうか。
親元を離れて
はやくも半年が過ぎていきます。


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