(ツッケンドンに)

ツッケンドンに
女は言いっぱなして出て行った

襖(ふすま)の上に灰がみえる
眼窩(がんか)の顚倒(てんとう)
鳥の羽(はね)斜(はす)に空へ!……

対象の知れぬ寂(さび)しみ
神様はつまらぬもののみをつくった

盥(たらい)の底の残り水
古いゴムマリ
十能(じゅうのう)が棄(す)てられました

雀の声は何という生唾液(ナマツバキ)だ!
雨はまだ降るだろうか
インキ壷(つぼ)をのぞいてニブリ加減をみよう

 
 
(注)原文には、「ニブリ」に傍点がつけられています。

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ひとくちメモ

「つっけんどん」という言葉が
「けんもほろろ」という言葉の「けん」の意味を
広辞苑で引いていたときに
出てきて驚いたのですが
「突慳貪」と書くそうです。
 
けんもほろろは
雉(きじ)の鳴き声を表わす擬音語だそうですから
「けん」は「剣」ではないことがわかったのですが
同時に
「つっけんどん」と「けんもほろろ」は
同義語・同類語であることもわかったわけです。
 
鳥のキジ(=雉)が
つっけんどんな仕草をする感じが
なんとなく想像できるではありませんか!
 
ツツケンドンに
女は言ひつぱなして出て行つた
 
この女は
いうまでもなく
長谷川泰子でしょうが
彼女がキジのように思えるところは
意図されたものではないのにかかわらず
イメージの連鎖が生じることになり
絶妙な技を感じます。
 
泰子に
そっぽを向かれた詩人が
自分にだけ通じる言葉で
自分を納得させている
 
たまには
神様を悪く言ったりもして
強気でいるけど
隠し切れない
淋しさ……。


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