小 唄

僕は知ってる煙(けむ)が立つ
三原山には煙が立つ

行ってみたではないけれど
雪降り積った朝(あした)には

寝床の中で呆然(ぼうぜん)と
煙草くゆらせ僕思う

三原山には煙が立つ
三原山には煙が立つ

(一九三三.二.一七)


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ひとくちメモ

「草稿詩篇」(1933年―1936年)の
2番目にある作品「小唄」は
1933年2月17日制作の日付が
末尾にあります。

1936年(昭和11年)制作(推定)の
「小唄二篇」の第2節に
そのまま生かされる詩です。
つまり、一次形態です。

この詩を作ってまもなくの
1933年(昭和8年)4月末に制作(推定)した
(とにもかくにも春である)のエピグラフに
「此の年、三原山に、自殺する者多かりき」とあり、
三原山火口での自殺を
新聞などのニュースで
詩人は聞き知っていたことが想像されます。

2月の
雪の降った日の翌朝に
詩人は寝床の中で
ぼんやりと
タバコをふかしながら
三原山を思います。

もくもくと
立ちのぼる煙……

行ったことはないけれど
僕は知っている

もくもくと
立ちのぼる煙は……

あれは……

詩人は、
煙が
単なる火山の煙には
思えませんでした。

あれは……


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