黄金期

声の或るもの、
――天子の如き!――
厳密に聴きとれるは
私に属す、

酔と狂気とを
決して誘わない、
かの分岐する
千の問題。

Terque quaterque

悦ばしくたやすい
この旋回を知れよ、
波と草本、
それの家族の!

それからまた一つの声、
――天子の如き!――
厳密に聴きとれるは
私に属す、

そして忽然として歌う、
吐息のように、
劇しく豊かな
独乙のそれの。

世界は不徳だと
君はいうか? 君は驚くか?
生きよ! 不運な影は
火に任せよ……

Pluries

おお美しい城、
その生は朗か!
おまえは何時の代の者だ?
我等の祖父の
天賦の王侯の御代のか。

Indesinenter

私も歌うよ!
八重なる妹(いも)よ、その声は
聊かも公共的でない、
貞潔な耀きで
取り囲めよ私を。

※第3、7、8連の表記は、原作と異なります。
※底本を角川書店「新編中原中也全集」とし、新字・新かなで表記しました。また、ルビは原作にあるもののみを( )の中に表示しました。編者。


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ひとくちメモ

「黄金期」Age d’Orは
第2次ベリション版「ランボー著作集」のうち
中原中也が翻訳したにもかかわらず
「ランボオ詩集」に収録しなかった4篇の一つ。
「ブリュッセル」とともに「翻訳詩ファイル」に記されてあります。

第3連と第7連と第8連には
各連全体を片方の中括弧={ でくくった上で
Terque quaterque=3回でも4回でも
Pluries=何回でも
Indesinenter=いつまでも、
――と、ラテン語の註がある詩です。

この註は
ランボーがこの詩に
「多声的な歌謡」を意図したものといわれ
中原中也が
忠実にその意図を翻訳しようとした跡が見られますが
ラテン語は訳しませんでした。

このあたりことが
「ランボオ詩集」未収録の理由なのか、
確かなことは言えません。

ルビは
最終連の「妹(いも)」だけにあり、
この「妹=いも」が
「山羊の歌」の中の「少年時」にある
「妹よ」とのつながりを連想させて
大変に興味深いことです。

「山羊の歌」の「妹よ」は、
やはり、
「いも」と読むのがふさわしいのかもしれませんから。

<新漢字・歴史的かな遣いによる>
黄金期   アルチュール・ランボー

声の或るもの、
――天子の如き!――
厳密に聴きとれるは
私に属す、

酔と狂気とを
決して誘はない、
かの分岐する
千の問題。

Terque quaterque

悦ばしくたやすい
この旋回を知れよ、
波と草本、
それの家族の!

それからまた一つの声、
――天子の如き!――
厳密に聴きとれるは
私に属す、

そして忽然として歌ふ、
吐息のやうに、
劇しく豊かな
独乙のそれの。

世界は不徳だと
君はいふか? 君は驚くか?
生きよ! 不運な影は
火に任せよ……

Pluries

おゝ美しい城、
その生は朗か!
おまへは何時の代の者だ?
我等の祖父の
天賦の王侯の御代のか。

Indesinenter

私も歌ふよ!
八重なる妹(いも)よ、その声は
聊かも公共的でない、
貞潔な耀きで
取り囲めよ私を。

※第3、7、8連の表記は、原作と異なります。
※底本を角川書店「新編中原中也全集」としました。ルビは原作にあるもののみを( )の中に表示しました。編者。


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