中原中也が訳したランボーの手紙・その3

ランボーが1873年7月7日付けでベルレーヌに宛てた手紙の翻訳は、
昭和9年4月1日発行の「苑」に発表されました。
この発表の時には「ランボーよりヴェルレーヌへ」のタイトルが付けられていましたし
「ランボー書簡2」を受けた形で
宛名の部分は、「同」と省略されていましたが
「新編中原中也全集」にならい、
ここでは省略しない形を掲出しました。

1873年7月7日は、
ブリュッセル銃撃事件(1874年7月10日)のちょうど1年前になります。
1年前から、すでに二人の関係には混乱が生じていたところを
中原中也の訳でも読むことができます。

「新字・新かな」表記で読みます。
洋数字変換したところもあります。

手紙の中にある「註」は、
原詩にある「編註」を中原中也が要約したものです。

 *

ランボー書簡3 ヴェルレーヌ宛

 ブリュッセルなる
ポール・ヴェルレーヌへ
ロンドンにて、月曜日午
1873年7月7日

 拝啓 スミス婦人(註。――ヴェルレーヌの宿のお主婦(かみ))宛ての手紙を見た。君はまたロンドンに来たいのらしいが、どうももう遅過ぎたね! みんながどういう風に君を迎えるか君は知らないんだろうが、アンドリューやなんかは、僕がまた君といるところをみたらどんな顔をすることだろう。然し僕はそんなことは気にしないようにしようから、ともかく君のほんとの気持を聞かせて欲しいんだ。君がロンドンに来たいというのはいったい僕のためにか? して来るとすれば何日だ? 僕の手紙(註。――先便)を見たんで来る気になったのか? だがもう部屋には何もないんだよ、外套一つ残してあとはもうみんな売っちゃった。2フラン10サンチームがものになったさ。下着類は洗濯屋に行っているのがまだあり猶別に一(ひ)と山(やま)程の物は自分用にととっておいた。つまりチョッキを五つ、シャツの全部、ズボン下二つ、カラー、手套、履物の全部、本や原稿の類は全部とってある。結局、まだある物で売れるものといったら、黒と鼠の両ズボン、外套とチョッキが各一つ、それから袋と帽子の箱があるきりだ。だって君は僕に宛てて手紙はくれなかったじゃないか。でもまあいいや、僕はもう1週間当地にいるから。それでと君は来るんだね? 本当のことを言ってくれよ。随分君としてからが来るにつけては勇気の要ったことなんだろうが、まあそうだってよかったよ。僕については心配御無用、至極もう人の好いもんさ。でも僕は、待っている。
Rimb.

※底本を角川書店「新編中原中也全集」とし、「新字・新かな」で表記しました。また、ルビは原作にあるもののみを( )の中に表示しました。編者。


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