四行詩

山に登って風に吹かれた

心は寒く冷たくあった

過去は淋しく微笑していた

町では人が、うたたねしていた?

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ひとくちメモ

「四行詩」というタイトルの詩には
「ランボウ詩集」中のものや
「秋の夜に、湯に浸り」の末尾に付されたものがありますが
1935年9月制作(推定)の「四行詩(山に登つて風に吹かれた)」は
「竜巻」や
「山上のひととき」と
同じ流れで作られたものと推定されているのは
これらの詩が
同種の原稿用紙に書かれ
筆記具、インク、筆跡も同じだからです。

とりわけ
「山上のひととき」の内容と似ていて
この2作品は同日制作とも推定されるほどですが
日付の記載がなく断定はできません。

最終行

町では人が、うたたねしてゐた?

――は、「山上のひととき」の

世間はたゞ遥か彼方で荒くれてゐた

――を言い替えたものであることは明白です。

「詩人は辛い」や
「山上のひととき」と
同様のモチーフを
簡潔明瞭に表現したのが
この「四行詩」であり
詩人は
この詩を書いた頃
世間というものをうとましく思う現実のドラマの中にあり
「やれやれ」
「勝手にしろい」
「あほくさいわ」……などと
世間というものを
諦めや達観や距離感をもって眺めていたことが想像できます。

世間とは
詩壇とか文壇とか評論界とか
詩人が
詩人論をもって
もの言わざるをえなかった世界のことでもあり
名声が高まるにつれ
ますます討論の場への参加が頻繁になていたこの頃
相当の鬱憤がたまっていたことがわかります。

この年の9月28日の日記には

私は徒らに人に愛情を感じ、もののあわれをも感じる。そしてもう此の世の普通の喜びだの行事といふものには何の興味も覚えず、だから嘲弄好きの感情なぞはまるで解せない。(略)敵対心なぞといふものも私には殆んどないに等しい。

――などと記されます。

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