失せし希望

 暗き空へと消え行きぬ
  わが若き日を燃えし希望は。

夏の夜の星の如(ごと)くは今もなお
  遐(とお)きみ空に見え隠る、今もなお。

暗き空へと消えゆきぬ
  わが若き日の夢は希望は。

今はた此処(ここ)に打伏(うちふ)して
  獣(けもの)の如くは、暗き思いす。

そが暗き思いいつの日
  晴れんとの知るよしなくて、

溺れたる夜の海より
  空の月、望むが如し。

その浪(なみ)はあまりに深く
  その月はあまりに清く、

あわれわが若き日を燃えし希望の
  今ははや暗き空へと消え行きぬ。

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ひとくちメモ

泰子との別離を
過去のこととして
もの静かに語りはじめた詩人のようですが

「夏」では
「嵐のような心の歴史」として
もはや、たぐり寄せる糸口一つもない
地平の彼方にあり
その心は
血を吐くような
過激なものです。

もの憂さ
たゆけさ
悲しさ
せつなさ……が
血を吐くほどに高じているのです。

麦畑に陽は照りつけ
静か過ぎて
眠りたくなるような悲しさに襲われて
思わず
神の住まわれるあの空を頼もうとするのですが
空は遠く
血を吐くようなもの憂さです。
たゆけさです。

空は燃えている。
畑はずっと続いている。
雲が浮かび
陽がまぶしい
今日も、昨日もそうだったように
太陽は燃え
大地は眠っている。
血を吐くような切なさのせいです。

嵐のようだった心の歴史
私の恋は
終わってしまったもののように
もはやそこから何かを手繰り出そうとしても
何の糸口もないもののように
燃える太陽の、ずっと向こうのほうで眠っている。

私は、亡骸として残ります。
私は、骸になっても
このまま残ります。

血を吐くような切なさですが……
血を吐くような悲しさですが……

せつなさかなしさ、と
ひとまとめにしたのは
どちらか一つでは言い切れない
切なく悲しい感情の表現でしょうか。
それを、体言止めにして詩を終わります。

説明を省いたことによって
長谷川泰子を失なった悲しみを
悲しみにとどめていません。

恋を恋だけに終わらせず
恋以上、恋以外を歌います。


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